我々が、まだヒヨコのオスとメスの区別もつかぬほど幼かったころ、学校が世界のすべ
てであり、そこでは通信簿という一枚の紙切れがハムレットでいうオフィーリアほどの重要な役割を演じていた。
何しろ、この紙切れには、学業の成績から生活態度にいたるまでが、教師によって事細かに数値化されランク付けされていた。例えば国語力はB、給食の食べ
方はA、国歌の歌い方はC、という具合にですね。
それゆえ親たちは、学期末になると通信簿を見ることだけを楽しみに生き、実際手にすると、まるでエロ本でもみるかのように隅から隅まで眺めていたもの
だった。そして、それによって、子どもの学力や状況を理解し、子どもに対する接し方を変えるという高等テクニックを駆使していたのだ。
例えば、子どもが近所に自慢できるほどのよい成績をとれば、両親はうちの子こそ世界一とばかりに褒めちぎり、新しいゲームソフトや、新車、はたまた議員
秘書のポストを与えてくれる。しかし、逆に悪い成績を取ろうものなら、親から人格を全否定されるほど罵られ、すぐさま近所に住む他人の子と自分の子どもを
比較する事しか脳のない性格が社会保険庁ばりのおばちゃんにつかまって「うちの良子はオールAだったのよ。お宅の子は?・・・ふーん。でも、成績だけがす
べてじゃないわよ。クククッ・・・」とかいわれて、失意のまま電車に飛び込んだりするわけだ。
そう、その時代には文字通り通信簿が人生の生死に直結していたのだ。だからこそ、子どもは子どもで通信簿で高評価が得られるよう努力し、先生に賄賂を
贈ったり、体を売ったり、ノーパンしゃぶしゃぶに連れてったりしたわけですね。
しかし、時が流れ、人は大人になり、学業に別れを告げると、通信簿はまるで霧のように人生から消え去ってしまう。もはや紙切れによる評価で人生を左右さ
れる事はない。代わりに給料という、もっとあくどい評価手段に評価されるようになるのだ。
だが、人類の中にはしぶとくも人生から通信簿が消えてなくならない人々もいる。その人々こそ日本の大政党の方々だ。彼らは、すでに髪の毛が全盛期の3割
にまで落ち込んだいい大人のくせして、未だに通信簿をもらい続けているのだ。(ちなみに疑う人がいると思うので一応断っておくが、これは北朝鮮の2回目の
核実験同様、正真正銘本当の話だ。)
この通信簿を発行してるのは、キャノンのトイレ会長・・・いや、御手洗会長に率いられる日本経団連。そう、あの日本を代表するような企業の集まりで、普
段、自分とこの株価をいかにして吊り上げるか考える他、ボーリング大会、登別温泉混浴湯煙ツアーなどに精を出しているあの団体が、自民党と民主党の政策を
独自の視点から評価すべく通信簿をだしているのだ。
それでは、さっそく、この通信簿をみてみたいという、人類普遍の欲求にしたがって、この通信簿(ウィニーを通じて入手)を見てみましょう。
○通信簿○
(文中政党の標記の仕方について 自=自民党 民=民主党 田=田中真紀子)
・税、財政政策
自=たいへんよくできました
法人減税、消費増税など全体的に先生の意向にそって活動してくれているようです。新政権もこの調子でがんばってね。
民=もうすこしです
やる気はある程度感じられるのですが、権力がないので結果を出せないのが現状です。もうちょっと先生の思うとおり動いてくれたら、ヒイキもできるんだけ
ど・・・
・規制緩和
自=たいへんよくできました
重点分野の規制緩和がとてもよくできて、先生も非常に助かってます。宮内君もお世話になりました。
民=もうすこしです
やる気はある程度感じられるのですが、いかんせん実績がありません。
・科学技術、創造立国
自=たいへんよくできました
知的財産の強化をがんばってくれたおかげで、中小企業にまねされなくなりました。
民=もうすこしです
やる気はある程度感じられるのですが・・・もう少し、先生の要望を実現できるようになると、成績も上がると思います。
・エネルギー、環境
自=たいへんよくできました
大企業への、温室効果ガス排出権の割り当て、環境税の徴収をやらなかったのは、大きな功績です。これからもその調子で。
民=がんばりましょう
先生の足ばかり引っ張ってるので、体罰をふるわないのが大変でした。どうしてあなたはそんな子なの!!
・教育改革
自=もうすこしです
教育基本改正については100点満点ですが、株式会社小学校の導入の遅れが評価を下げてしまいました。本当にもうすこしです。
民=もうすこしです
教育基本法改正で他の子と足並みをそろえてくれた事は大きかったです。でも、いかんせん影が薄くて・・・
・通商政策
自=たいへんよくできました
農業を犠牲にして輸出企業を助ける政策が実をむすびつつあります。農業分野で企業に門戸を広げればさらにGood!!
民=もうすこしです
やる気は感じられるのですが、影が薄くて何をやってるのか分かりません。
この通信簿をみていると、自民党の評価がやたらと高くて、なんとなく自民党が先生におべっかばかり使ういやらしい(それでいていじめられやすい)学生に
思えてしまうが、しかし、経団連におべっかをつかって、通信簿で好成績ばかり得られたからといって、いったいどうなるというのだろうか?
確かに、日本を動かす大政党が、経団連ごときの団体に褒められたからといっても、彼らには親に褒められることもないだろうし、新しいゲームソフトを買っ
てもらえる事もめったにないだろうから、そうする意味はない(首相のような家庭なら分からんでもないが・・・)。おまけに、政党の評価は、市井の市民によ
る選挙(メディアによる大衆動員のスラング)が担っているのが名目なので、経団連の評価など本来は必要ないはずなのだ。すると、この通信簿には意味はない
のではと思えてくる。
だが、経団連といえば、いかに無駄を減らして儲けるかを昼夜考えるような連中の集まりである。実は、この通信簿にも、経団連の所属団体のためにこう記さ
れてある一文がついている。
”これを読んで我々の利益を代弁してくれてる政党に献金しなさい!”。
そうなのだ。つまり、この通信簿は、経団連の要望を沢山通すためにどうすればいいか教えるための通信簿であり、経団連は成績がよく自分の利益を代弁して
くれる政党に金を与える。一方政党は政党でこの通信簿で好成績を収めれば、企業献金というご褒美が沢山もらえる。だからこそ、みんな好成績が収められるよ
う努力し経団連の要望を聞くというわけだ。
ご褒美ほしさに先生に褒められるよう、がんばってみる。やっぱり小学生となんら変わらないですね。
06.10.14
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