社会風刺ユーモアコラム〜ハブの卵〜

おまけの短編小説

☆総理とミサイル☆

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 ある紫外線が激しくお肌を攻撃する昼下がりのこと。総理大臣であるぼくが、いつものように、ゼネコンに便宜を図っていると、突然官房長官が血相を変え て、執務室に飛び込んできた。
「大変です。総理!」彼の顔は、宇宙人のように蒼白としていた。「北朝鮮がミサイルを撃ってきました!!」
ぼくは、一瞬で事態の緊急性を理解し、そして混乱した。
「なんで!?なんで!?どこに!?どうして!?なんで!?」
「落ち着いてください、総理。」
ぼくは我に返った。「すまん。それで?」
「はい。二分ほど前に、ホワイトハウスから、北朝鮮が、我が国にミサイルを発射したとの報告が入りました。意図は分かりませんが、おそらく、戦争がしたい んだと思います。」
「で、どこが狙われてるんだ?」
「攻撃目標は、ここ永田町です。それから、着弾は十分後です。」この言葉に、言い知れぬショックを受け、ぼくは狼狽した。「まいったな。絶対、最初に攻撃 されるのは柏崎だと思ってたのに。国対委員長に一万円渡さなきゃ。」
「総理。そんな事言ってる場合じゃないでしょう?いそいで対策を練らないと、一万円どころか命だって無くなりますよ!」

 ぼくは、ミサイルへの対処なんて、どうしていいか分からなかった。もともと、優柔不断なタチなのだ。よくもまあ、これで総理大臣が勤まったものだと、自 分でもつくづく不思議に思う。
 数秒の熟考の後、ぼくは決断した。いくら優柔不断とはいえ、人間、生死がかかれば、決断できるというものだ。
「すぐに、閣僚のみんなを集めてくれ。緊急会議だ!」こういうときは、人任せに限る。

 すぐに閣僚、それと政党幹部が、ぼくの元へ集まった。やってくると同時に幹事長が口を開いた。
「やりましたね。総理。ついに有事ですよ。これで次の選挙は絶対勝ちですね。事に総理が殺されたともなれば、支持率アップは間違いないですよ。ハッハッ ハ。」
「やだよ。ぼくはまだ死にたくない。まだやりたい事がいっぱいあるのに。」ぼくは言った。
「でも、もう助かりっこないですよ。逃げるには時間がないし、地下シェルターすらないんだから。」幹事長は冷静だ。
「そうなんだよ。どうしようか・・・?」
その後、ぼくらは長い静寂に包まれた。

「まだ手はあります!」しばらくしてから防衛長官が発言した。「ミサイル迎撃システムがあります。そもそも、こういう時のためにアメリカと協力して開発し てきたんじゃないですか!」防衛長官は嬉しそうだ。彼はこんな時にしか仕事がないからね。
「その手があったか。早く撃ちたまえ。」ぼくは叫んでいた。
「早速ワシントンに打電します。」

 しばしの間のあと、防衛長官の顔に笑顔が浮かんだ。「今、アメリカ軍が迎撃ミサイルを発射しました!」
「助かった。」ぼくらは、安堵のため息を漏らした。「脅かしやがるぜ。」
「今、米国本土を出たので、あと一時間ほどで打ち落とすとの事です。」防衛長官が付け足した。
「なんてこった。だめじゃないか!あと四分で着弾なんだぞ!」

「誰か、助かる方法を教えてくれ!?」
「もう無理ですよ。覚悟を決めましょう。党が勝てると思うと私は死んでも悔いは有りません。」幹事長はあくまで冷静だ。
「もう、そうするしかないか。このまま、死を待とう。」

「待ってください、総理!」官房長官が叫んだ。「あなたが、あきらめてどうするんですか!?あなたは、総理大臣なんですよ。最後まで意思を持って、住民の 避難や後の事を考えてください!」
その言葉に、ぼくは目を覚ました。「悪かった。ぼくは・・・最後まで、ちゃんとやるよ!住民の避難状況を説明してくれ!」
「そうです!総理!・・・住民は、ほとんど避難していません。」
「すぐに、できる限り、ここから離れるよう放送してくれ。それから、国民に向けて、北からミサイルが飛んできたけど何があっても冷静に振る舞ってほしい、 我が国はいかなる攻撃にも屈しないと言ってくれ。」ぼくの声は涙声になっていた。「それから、全国会議員に、どこか別の所で議会が開き、どんなときでも民 主主義を忘れないよう・・・」ぼくは、もう、最後まで言えなかった。
「分かりました。では、総理これで。できれば、お元気で。」官房長官は、ぼくに最後の別れをすると、指示をだしに走っていった。

「他の人も今までご苦労だった。みんな最後の時を有効に過ごしてくれ。ぼくは最後に太陽を見てくるよ。それに飛んでくるミサイルも。」ぼくは、残った閣僚 にこう言い、首相官邸を後にした。あと一分だ。

 最後の空は、雲ひとつない青空だった。その空を、切り裂くように、ミサイルが飛んできた。いよいよ最後の時だ。ミサイルは、ぼくのいる所をめがけて、も のすごいスピードで一直線に下りてきた。ぼくは、死を覚悟し目を閉じた。
 次の瞬間、ミサイルは着弾した。だが爆発はしなかった。ぼくが、目を開けると、ぼくの目の前には、ミサイルが、空へ伸びる柱となって台地から生えてい た。「不発弾だったのか・・・」ぼくは、放心状態のまま、恐る恐る近づいてみた。すると、ミサイルの側面に、文字が書いてあった。
"米不作 至急送ってほしい"

「大丈夫ですか?」無事だった官房長官が首相官邸から飛び出してきた。
ぼくは、すぐにこの文字を指差し彼に尋ねた。
「どう思う?」
「分かりません。」官房長官は少し考えてから答えた。そして、こう付け足した。「察するに、あの国じゃミサイルが一番速い通信手段なんじゃないでしょう か?」


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